流通経済大学サッカー部

〜困難を乗り越え、いざタイトルへ〜


残り、ひとつ。

流通経済大学サッカー部は今、12年ぶりの関東大学サッカーリーグ1部 優勝という大きなタイトルへの挑戦を前にしている。


日程としては10月末に最終節を迎えた関東大学サッカーリーグだが、新型コロナウイルス感染症の影響により延期開催となった試合を通常開催の試合の合間に戦い、かなりタイトなスケジュールの中、ひとつも落としたくないとモチベーション高く戦ってきた。


その結果、タイトルの可能性がある1チームとなり、迎える今週末。

流通経済大学サッカー部は、リーグ最後の試合として11月13日 現在1位を走る宿敵・明治大学との直接対決に挑む。


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必ず1年で戻ってみせるという決意を前に

突然出現した予想しなかった危機



常に優勝候補として挙げられプロ選手を多く輩出する流通経済大学サッカー部が降格、というサッカー界に衝撃が走る結果となった2019シーズン。

屈辱の降格で誓った必ず1年で戻るという決意の元、迎える2020シーズンだった。

世界中がパニックとなる誰もが予想することができなかった難題が降りかかる。


新型コロナウイルス感染症のパンデミック。


日本でも感染拡大が始まり目に見えない、得体の知れないウイルスとの闘い。

ウイルスとどう闘えば良いか、どう防げば良いのかも手探りで日本中でマスクを入手することも困難となり、手を洗うためのハンドソープや石鹸すらも入手が難しくなるなど、パニックを極めた。

少しずつながら感染予防になにが有効かがわかってきた時、連日唱えられた『接触を避ける、飛沫を避ける、密を避ける』。それに加え、人との距離を取るソーシャルディスタンスの提唱。


ニュースを見ながら流通経済大学サッカー部のことを思った。

流通経済大学サッカー部は全寮制。200名を越える選手たちが寮で共同生活をしている。

1部屋に4人~の部屋が大多数。マスクを確保することも難しく、必要なハンドソープや石鹸、消毒の量も想像することも難しい量であろうと想像した。

大人数での共同生活という生活形態において、新型コロナウイルス感染を予防しながら生活をするということは容易ではない。


関東大学サッカーリーグをはじめ、総理大臣杯などさまざまな試合の中止や延期が決まり、開催ができるのかどうかもわからない先の見えない日々が続いたが、大学サッカー全体で新型コロナウイルス感染を予防する行動やルール、ガイドラインを定めながら関東大学サッカーリーグがスタート。


2部で戦う流通経済大学サッカー部は、曺 貴裁コーチを迎え「プレーとしてはもちろん、走ることひとつ、判断することひとつ、人間としての選択ひとつとっても、すべてがプロ基準に繋がっている質の高い指導」(満田誠 4年)の日々を重ねながら、新型コロナウイルス感染予防を徹底し、歩みを進めた。

リーグ2部所属のチームとしては史上初・チームにとっても初めてとなるアミノバイタルカップを制し、流通経済大学の存在感ここにありという強さを示すと、必ず1年で復帰という誓いを全うしリーグ2部優勝を決め、1シーズンでの復帰を決めた。


曺コーチとの出会いと、共に戦い重ねた日々は、

「サッカーのことはもちろん、人としてという部分を教えてくれた。人としてサッカー選手としてプレーだけでなく中身が成長できたという実感がある」(仙波大志 4年)

「人としての成長や可能性を引き出してくれた」(満田)

「人として、漢(おとこ)としての部分が。大きく変わった。学ぶことが本当に多かった」(宮本優太 4年)

と選手たちが共通して「人として」の成長を口にするほど、大きな影響を受け成長を自覚できるほどの確信を持った濃厚な1シーズン。


2020シーズンは誰もが経験したことのない、手探りで難しいコロナ禍という状況の中、目に見えない敵と闘った日々。

200名以上が生活を共にしていると、同じ価値観で物事を共有するのが非常に難しいことだが、それでも大人数で共同生活のルールを定め、高い意識を持って取り組んできたこともあり、大きな感染が起こることもなく2020シーズンを無事に終えた。


しかし。

より強い敵となったコロナとの闘いが、待っていた。



サッカーが出来る日々が当たり前ではなくなった日。

全員で、目指す頂点へ 強く前へ―。


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関東大学サッカーリーグ1部へ復帰、2部からの昇格チームとはいえ誰もがリーグの中心となる1チームになるであろうと踏んでいた通り、存在感を放ちながらリーグを突き進んでいた矢先。

8月下旬。流通経済大学サッカー部で、新型コロナウイルス感染によるクラスターが起こった。


デルタ株の出現により爆発的に全国で感染者が増えていた中、どんなに予防していても誰がどこで感染してもおかしくはない状況だと、中野雄二監督は考えていた。

「感染者がかなり多かった関東ですし、デルタ株はそれまでの新型コロナの予防ではなかなか防げないこともあり、感染者が出てしまうのは仕方ないと考えていました。

問題は、感染者が出てしまったとしても、どう集団感染をどう回避するか。それを防ぐことが重要だと常に考えて準備をしていました。」


「体調不良者が出て感染疑いとなった時に隔離できるトイレを始め水回りの設備がある部屋を3部屋設けていた。従来通り、毎日の検温や体調チェックなども行いながら対応していた中で、発熱者が出た。すぐに隔離できる部屋で発熱した選手は生活をすることにして、PCR検査を受けました。結果は、「陰性」とのことだった。」


それでも念のためと考え、陰性の結果を受けてからも隔離ができる部屋で生活をしてもらい、様子を見ていたという。

その間に熱は下がり、体調に問題がなくなったものの念には念をと隔離状態が続いていたが、その他に、体調に異変があった選手が出たため、陰性だったこともあり体調不良から回復した選手を自室に戻し生活をしていた。


「陰性でお伝えしていた方なのですが、陽性でした」


保健所からの連絡だった。起きてはいけないことが起こってしまったのだ。

しかし、その時のことを中野監督は怒りや否定で責任問題を口にするのではなく、

「感染者が増え、検査件数が多くなっていたであろう中、休みなく働いていた保健所の方々や検査機関、医療従事者の方々を想うと。人間だから誰しも間違えはあるんですよ。」と、話す。

もう時すでに遅しの状態でした、と中野監督。


濃厚接触者や体調不良者などが出て検査をすると、やはり感染者が増えた。

5人以上の感染でクラスター認定となるが、8月下旬クラスターの認定。

控えていた総理大臣杯への出場を辞退、サッカー部の活動は停止し、検査で陰性であっても濃厚接触者認定をされていなくてもほぼ全員が自室から出られない隔離措置となった。


苦しい苦しい長い困難が、チーム全体を襲った。

「医療従事者の方や保健所のみなさん、検査をする方々などもう長い間ずっと闘っている。疲弊する中で人間は完璧なことはできないですよ。それが起こってしまうような大変な状況だったと思いますし、起こってしまったことは仕方ない。

あとは、感染をどれだけ押さえられるか、ということに切り替えた」と中野監督。


最終的に229人中、30数名が感染。

数字にすると全部員の10数%で感染を食い止めた。

選手たちは無症状であっても、生活している建物が違っても、慎重を重ね隔離生活や外出自粛生活を送った。

サッカー部の練習場はあまり人が来ないような奥地にあるグラウンドもあるが、それでもサッカーはもちろん、走ることさえもできない自粛の日々が一カ月以上も続いた。


当然体力が落ちていく、筋力も落ちていく。精神も追い込まれる。

目に見えないウイルスを前に次に誰が発症するかという恐怖と不安を持ちながら、極限の精神状態となる選手も多くいる中で、新型コロナウイルスを抑え込むために、ただただ我慢の日々を過ごした。


暗く険しい出口がなかなか見えなかった長いトンネルからやっと出口の光が見え、サッカーができる日々を取り戻した流通経済大学サッカー部は、体力も筋力も落ちた状態から戦いに挑み、そこから戦いを重ねるごとに強さを持って結果を掴み、タイトルの可能性を導き出した。


中野監督は、10月30日 法政大学に1-6という大敗の後、こう話した。


「クラスターを出したことで流経大のサッカー部は出て行けと厳しい言葉をかけられたり、避けられたり。選手たちは本当に苦しく悲しい思いをしたと思います。

走ることさえ許されない日々をあんなにも長い時間過ごした彼らにとって、1-6の敗戦は、どうってことない。

だって、1-6で負けても来週にはまた試合ができるんですから。明日にはまたサッカーができるんですよ。

それができなかった日々を考えると、どうってことないはず。

あの日々を経験した彼らだからこそ、今できる「サッカー」があるんです。」


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感染者は大幅に減ってはいるものの、現在もまだコロナ禍であることに変わりはない。

クラスターの後、流通経済大学サッカー部の生活はより厳しいものとなり、全員がより高い意識を持って感染予防に取り組んでいる。

寮の入口には当番の選手たちが寮に出入りをする選手たちの検温や体調チェック、消毒などを確認。

徹底して管理をし、食事の時間のローテーションや黙食の徹底など事細かなルールを設けて日々を重ねている。


「つらかったよな!?」と中野監督は笑いながらではあるが、マネージャーの学生にそう問いかけた。


これまでたくさんお話をしていただいてきたが、中野監督からこれまで、苦しかった、つらかった。という言葉は聞いたことがない。

中野監督からその言葉が出る、ということは本当に深く重くつらかったのだと伝わってきた。


1-6という大敗は、数字だけ見ると流経大崩壊ととらえる人もいたかもしれないが、

試合後、チームは下を向くことなく、次に向けてやることがより定まったと前を向いた雰囲気に包まれていた。

その結果、1週間後に行われた早稲田大学との戦いで勝利。

12年ぶりとなるタイトルまで、残り1勝とした。


相手は宿敵ともいえる、明治大学。

おそらくではあるが、2016シーズン前期に明治大学に勝利して以来、流経大は明治大に勝利がない。

常に大一番となるこのカードは、お互いに絶対に負けたくないという両者がプライドを懸けた試合となる。


「コロナのことだけでなく、1年生の時から多くのことがあったからこそ、このチームで関東を、タイトルを獲りたい。自分たちのためだけのことではなく、後輩のためにも。支えてくれる方々のためにも。自分たちに関わってくれている方たちのためにも」(宮本)

「みんなで笑えない時期もあったから。だから最後はみんなで思いっきり笑いたい」(薄井覇斗 4年)


「監督を胴上げしたい。いろんな面で俺たちを常に支えてくれたりチームをいつでも成り立たせてくれていたのは、監督だから。」(仙波)



流通経済大学サッカー部は、今日も思い切りサッカーができる瞬間を噛み締めている。


関東大学サッカーリーグ1部

明治大学vs流通経済大学

中台運動公園陸上競技場にて14:00キックオフ


2021/11/12 IIMORI


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PROFILE:流通経済大学サッカー部

1965年創部 茨城県龍ケ崎市をホームタウンとして活動 

サッカー専用グラウンド3面で日常のトレーニングを行い、約20年間で120名以上のプロ選手を輩出している。2021年部員数:229名

TEXT: IIMORI TOMOKO

EDIT: SHIOZAKI TAKAHITO


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